承前(その11)、もう少し数学の話を続けましょう。
数学が他の科目と大きく違うところは、解法の糸口を自ら見つけ出さなければならない、ことにあると思います。英語や国語なんかはある程度問題の意図に沿えば、大きく外れない答えを導き出すことができるのですが、数学の場合は、何も思いつかなければゼロ点です。思いつく、すなわち「ひらめき」が必要な科目とされています。ひらめくための誘導=ヒントが、上位旧帝大になればなるほど少なくなるわけです。
本番の重要な試験において、解法を「ひらめく」ためには、いったい何が必要なのでしょうか。いろいろあるんでしょうが、「持っている武器から逆算して解法を絞り込む」方法は良いかな、と個人的には思っています。たとえば高校受験の数学。これってどんな難関高校の問題であっても、解法的には「補助線プラス三平方の定理と相似を駆使する繰り返し」ですよね。何も思いつかない~と苦しむときは、どこかに三平方が?相似が?はたまた補助線を?と思考すればよいわけです。
このように、高校受験数学が補助線を思いつくかどうかの数学、まあある意味、パズルみたいなものであるのに対して、大学受験の数学は「式の変形」がキモとなります。証明すべきことを提示され、それに対して自分の都合の良い結論に合わせた形に式を変形できるのかの能力がひたすら問われるのです。実はこれ、大学入学後に取り組む、各種「論文」作成においても必要とされる能力です。あらかじめ結論があって、データを数式にぶち込んで、それらしい根拠を作るわけですから。
そして、与えられている武器がけっこう多いことが、問題の難しさの原因となるわけですね。特に大学受験の場合は、別解も多い。幾何の問題であれば、そのまま幾何的に解いてもいいし、ベクトルを使ってもいい、複素数平面に置き換えてもいい、と様々な解法が存在するため、逆算の絞りにくさが生まれてくるのです。
そして、時間制限も厳しすぎるわけですから、「完答」というのが非常に難しいこととなります。そりゃ完答できたらそれがいいが、そんな甘いもんではない。上位旧帝大になればなるほど、部分点をせこせこ、こすりながら狙うしかないし、実は作問者側もそれを求めているんですね。
そうした傾向がわかっているから、東京の私立難関中学受験では、入試の段階で解答の「作成過程」まで提出させるんです。その生徒の論理構築能力・展開能力を見たいわけです。将来東大に通用するかどうかを判定するために。もうその時点で、答えが出れば評価される算数、という枠を超えてロジックを扱えるか否かで評価する数学、というふうに脱皮してることとなります。
数学の問題練習、過去問演習をするにあたり、こうしたことを考えながら解いてみると、ちょっとおもしろくなるかもしれませんね。