入試問題は、その大学の顔だ。大学側も丸1年もしくはそれ以上の時間をかけて、全力で作成する。本ブログでもいくつか、いつまでも語り継がれる有名問題というものを見てみたいと思う。

まずは2003年東大数学

「円周率が3.05より大きいことを証明せよ。」

問題文すべてが、1行のブログタイトルに収まってしまうほどの簡潔な問題。数学の問題文は短ければ短いほど美しいと筆者は勝手に思っているのだが、これはまさにその究極形である。東大数学は文系(文科)と理系(理科)で異なるのだが(共通問題もある)、これは理系のみに課された問題。全6問のうちの第6問であった。東大理系数学は第3問と第6問だけ、解答用紙の欄が大きめになっている。手ごわい問題だぞ、とあらかじめ意識して臨むこととなるのだが、その第6問がこの短文。当時の受験生は相当面食らったことだろう。

あまりにも有名な問題になってしまったため、別解等も多数研究されているので、興味のある方は検索していただければと思うが、とりあえず最もメジャーな解法は任意の円に内接する正12角形を(唐突に)持ち出し、12角形の周より円周の方が長いよね?なので3.05より上、というもの(2点間の最短距離が直線だが、円周は曲線だからこれより長くなることは自明のため)。たとえば半径1の円に内接する正12角形だったら、周の長さは3.06になる。まさに題意を満たすのだ。これがもし6角形や8角形だと、3.05より小さくなってしまうので、少なくとも12角形以上を持ち出さねばならない。

さてこの唐突な12角形を果たして本番で思いつくことができるのかどうか、今後の作戦にどうつなげていけばいいのだろうか、ということを今でも筆者はいろいろ悩んでしまう。時代背景を考えると、当時ゆとり教育の導入に対する功罪がかまびすしく論じられていた。のちにミスリードだと判明するのだが、ゆとり教育は円周率を3として教えている、という今風にいえばかなりバズったネタがあったのである。

もし円周率が3だったらどうなるか。そう、それは先ほどの円に内接する正6角形の周の長さと同じなのだ。どう遠くから見ても、円とはほど遠い。その正6角形を8→12→16などと増やしていくと、見た目は円に近づき、周の長さは3.14すなわち円周率に限りなく近づいていくのである。まさに円周率の定義に立ち戻ることができた、というわけだ。

円周率3のニュースを見て「ふーん」で終わらせず、今のような思考をして少しでも実験したことがあるなら、この12角形は決して唐突ではない、ということになるし、そういう思考実験をするような人こそが東大に通る、ということになるのだと思う。詰め込みでもないゆとりでもない、東大が理想とする教育像というものが少し垣間見える気がするわけだ。

ちなみにこの円周率の問題はあまりにも衝撃的すぎて、その後、大なり小なりオマージュする大学が続出した。たとえば京大。2006年に「tan1度は有理数か」という東大より短い問題文での出題をして、ちょっとだけ話題になった。ウイットに富んだ形で世間に訴えかける東大の入試問題に、もっともっと注目していきたいと思う。

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